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1月21日(金)


年末年始に勤しんでいた仕事は、漫談家・綾小路きみまろさんのぽち袋制作でした。
10数年の長きに渡り使い続けていただいています。本当に感謝の念に堪えません。
毎回数量のみのご指定(今回は計150点)で、内容はおまかせでご依頼くださるので、お心づけを受け取る方にも
好んでいただければと願いながら一点一点作っています。

 
 





年の瀬には、毎年実家の両親が年賀状の
友禅和紙加工を依頼してくれます。
こちらもいつもおまかせで頼んでくれるので、
今回はずばり虎柄。せっかくの寅年なので、
この絵柄を用いて何かアイテムも作れればなあ
と考えています。




二週間に一度の図書館通い継続中。最近読んだ本は以下のような感じです。


最悪 /奥田英朗著

・暴虎の牙 /柚月裕子著


・空中ブランコ /奥田英朗著


・イン・ザ・プール /奥田英朗著


・最悪 /奥田英朗著


「暴虎の牙」は、昨年の9月3日に図書館に予約を入れ、今ついに順番が回ってきた、ひときわ感慨深い作品です。
以前の日記で紹介した「孤狼の血」「狂犬の眼」に次ぐ、警察と暴力団をめぐる小説の3部作目になります。
ハードカバーで約500ページ、読み応えたっぷり。待ったかいが充分にある物語を堪能しました。本当に魅力に
溢れる筆致です。


* * *

「最悪」も犯罪小説です。こちらは文庫で600ページと、かなり厚みがあります。物語にも、同様に厚みがあります。
小さな鉄工所を営む40代の男、チンピラな20代の男、銀行勤めをしている20代の女。境遇のまったく異なる3者が、
それぞれの日々の中でそれぞれの理由によりじわじわと追い詰められてゆきます。最後にとうとう出会ってしまう
3人が取る行動とは。
特に、真面目に仕事をして、当たり前に家族を持ち、普通に生活をしている鉄工所所長の川谷氏の身にふりかかる
出来事の数々は、決して命を脅かすような「大事件」とまでは言えないけれど、真綿で首を締められるような感覚を
味わうものばかりで苦しくなります。基本はお金に関わる問題で、それは取引先に納品した不良品絡みの弁済だった
り、長女の短大費用の工面だったり、利益のあがらない鉄工所に革新的な機械を導入する計画だったり。そこに
近隣の住民から工場の騒音に対し苦情が入り、役所の担当も介入する始末。クレームは徐々にエスカレートし、
大事な銀行との取引話で行員が訪れる当日、ついには反対運動の看板まで掲げられてしまいます。おまけに、
雇っている元引きこもりの青年はろくに口を聞かず、平気で無断欠勤し、納期に一秒たりとも猶予がない仕事も
途中で放り出して逃げ帰るといういい加減さ。とにかくもう毎日毎日心配事や厄介事や不安材料が蓄積する一方
なのです。
その描写があまりに丁寧で現実味を伴うので、すっかり川谷氏に感情移入をし、我が事のようにとらえて、確実に
暗闇に引きずり込まれそうな絶望感が増す心模様を共に体験できます。
全てを投げ出してしまいたい。人間生きていれば、一度くらいそんな心境に襲われるものではないでしょうか。


* * *


「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」は、「最悪」と同じ著者・奥田英朗さんの作品で、連作短編集です。
医学博士の伊良部一郎精神科医が、伊良部総合病院の薄暗い地下にひっそり構える診察室で「いらっしゃーい」
と明るく出迎えてくれます。
色白で、年の頃は30代後半。患者さんたちの頭の中で度々動物に例えられる伊良部先生ですが、だいたい
「カバ」「トド」「水牛」が有力です。「アニマルテラピーだと思えばいいのか」と納得される場合もあります。様々な
悩みを抱えた患者さんが面くらうほどの無茶苦茶な治療法を提案・実践し、注射フェチでなにかといえばすぐにビタミン
注射を打ちたがり、言動は子供丸出し、マザコン疑惑も濃厚。
そんな伊良部医師が見栄やらつまらないプライドやらを誇示する必要もない相手と見なされ、なんでもかんでも話せる
貴重な存在となり、気づけば誰もが足しげく通院する流れに。心に居座る重石が取り除かれ、元来以上に軽やかさを
取り戻すのです。
いたって適当で偶然良い結果を招いているのか、実は名医の狙いどおり計算どおりに事が運んだのかが語られること
も一切ない、潔さと清々しさが好きです。次作の「町長選挙」で、また伊良部先生に会えるのが楽しみでなりません。

依存症、被害妄想、自意識過剰、恐怖症、強迫神経症・・・言葉にすれば重く響くけれど、中身を紐解いてみれば、
深刻さの度合こそあれ、多くの人が一つや二つ身に覚えのある事柄に出くわすのではないでしょうか。私は札幌で
一人暮らしをしていた頃、出かける度に火の元が気になって仕方ない時期がありました。まさに登場する一人の患者
さんと同じです。ルポライターが職業のその男性は、不安や心配が日々増幅し、もはやまともに外出もままならない
ほど。どうしても外に出なくてはならない際は、出先から自宅の固定電話にダイヤルして電話機が応答するのを確認
したりします。「!!」と内心で声にならない叫びを上げました。自分も実際、1、2回やった覚えが…

「冷静に狂うのはすごいことです」と伊良部医師が言うとおり、本人はいたって冷静に理論的に考えてはいるのです。
自分の気にしすぎであることは、重々承知なのです。それでも追い払えない何かが体内に突如宿るのが、生身の
人間です。今から思えば、「あの時は一体なんだったのだろう?」と単なる不思議な心理として振り返れます。

ちなみに、火事を恐れる強迫神経症の患者さんがライターという職業なのは洒落も含まれているのかしら?とも
思ったり。

1月7日(金)


謹んで新春のお慶びを申し上げます。新たなる一年の皆様のご多幸を、陰ながら心よりお祈り申し上げます。
寅年の店主(12年ぶり4回目)は、涼風工房22年目の本年も、地味でも地道に活動を継続してゆきたい所存です。
今後とも、何卒よろしくお願いいたします。

年が明けて6日目に、関東も雪が積もるほど降りました。


雪 木 画像





雪 夜景     雪 関東





  





    





雪 神社 画像   雪 神社 画像





雪 稲荷神社 画像





    





  





4枚重ねの靴下、滑り止めがきいたブーツ、雪を踏みしめる感触、お腹に力の入る歩き方、凍りかけの歩道をゆく時
のすり足・・・
すべてが札幌で暮らした7年半をなつかしく思い出させるものでした。まさか横浜の冬でこのような状況を経験するとは。
見慣れた近所も、まるで別の見知らぬ町みたいに映ります。

首都圏を中心に交通の乱れなども懸念され、喜んでばかりもいられないとは思いますが、やはり単純に、白い雪の
積もった風景は美しく、風情があり、特別な感慨をわかせる力を静かにたたえているなとしみじみ感じた晩だったの
でした。




妹が贈ってくれた、2022若冲カレンダー。


昨年もプレゼントしてくれ、一年間楽しませてもらいました。

*2021年1月の日記で紹介




今年の作品群は更に絢爛豪華で素晴らしく好みです。
月が終わる日、翌月の分を取り出し飾る動作に
わくわく感が伴うのはよきことだと思います。


一月は「旭日松鶴図」。
まさに天才絵師のなせるわざ。



 



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