 
8月1日(月)
久しぶりに製本の仕事をしました。(5年ぶり2回目) 前回はこちらです
→ *2017年9月の日記で紹介














120ページの歌集を30冊製作しました。今回は、製本の大まかな作業を紹介させていただきたいと思います。

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まずは印刷原稿を作成します。
手元にいただいたデジタルデータに基づき、ワードを
使い1ページずつ作ってゆきます。
目を皿にして注意深く確認を重ね、その後校正などの
段階に進みます。
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B6サイズの書籍用紙を用い、両面に印刷してゆきます。
ごく一般的なインクジェットプリンタを使用しており、
紙質やその他の事情から、基本的に一枚一枚手差し
です。
その都度インクをきちんと乾かす点も大事です。
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印刷した原稿をページ順に揃え、きっちり形を
整え、厚紙で挟み、大型クリップでしっかりと
固定します。
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背になる部分に、のこぎりで切り込みを入れてゆきます。
大体5mm間隔、深さ2-3mmを目安にしました。
均等な溝を作ることを心がけます。
本文がばらけたりしないようにするため、ここは
非常に大切な工程となります。
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切り込みを入れた背部分に、接着剤を貼付して
ゆきます。
爪楊枝を使い一つ一つの溝にしっかり入れ込んで
から、全体に数度塗ります。
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貼付し終わると、このような感じに。
このまま一日ほど置き、完全に乾かします。
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乾いて固まったら、次の工程に移ります。
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見返し部分となる用紙を、本文の大きさに合わせて
切り、接着してゆきます。
色は青系と迷いましたが、あえて落ち着きのある
グレーにしました。
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見返しが付き、ちょっと本らしくなってきました。
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でも背の方から見るとまだこんな感じ。
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なので背を一気に攻めます。
白和紙、寒冷紗(かんれいしゃ)、しおり紐、花布
(はなぎれ)、クラフト紙。
これらをそれぞれ適した大きさに準備して貼り込みます。
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一番手、白和紙さん。
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続いて、寒冷紗(かんれいしゃ)さん。
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しおり紐さんと
花布(はなぎれ)さん。
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最後に、クラフト紙さん。
色々貼られた本文は、若干の重しを乗せて
このまま一日置いて乾かします。
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本文を寝かせている間に、2mm厚の芯ボールと
友禅和紙等を用いてハードカバーとなる部分を
作成します。
友禅和紙の絵柄はお任せでしたので、悩んで迷って
最終的に5種を取り寄せ、更にうんうん唸ってこちらに
決めました。
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本文とカバーを貼り合わせてゆきます。
ここで少しでも何かを失敗すると、これまでの工程
すべてがおじゃんになるという、大変緊張感の伴う
作業となっております。
扇風機一台でしのぐ暑さによる汗と共に、別の汗が
滲む感じ。
*失敗例:
余計な所に接着剤のあとが付く
しおり紐に接着剤が付く
見返し用紙が曲がる・よれる・うっすら爪のあとが付く
カバーと本文の位置が微妙にずれる
など、悲しい出来事を乗り越えた先に完成があります。
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うまく合体できました。ほっと一息。
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いそいそと溝入れ作業などもし。
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重しをしながら再度乾かします。
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ようやく本になりました。
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しおり紐と花布もしっかり付いています。
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次に、表紙に設けるタイトル装飾を作成します。
枠部分の土台は、1mm厚のイラストボードを使用。
表紙のカバーに手持ちのインクジェットプリンタで
直接題名を印字することはできません。ここは市販の
書籍にはない手作り製本の味を生かします。
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ずらり。なにやら表札みたいなことに。
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いざ、表紙の中央に貼り込んでゆきます。
ここで少しでも何かを失敗したら、すべてが台無し
です。もはや無の境地で丁寧に扱います。
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今度はタイトル付きの状態で、重しをして
乾かします。
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こうして時間を経て、30冊が揃いました。
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少し気分をかえ、おまけのしおりを作ってゆきたい
と思います。
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歌集題名の「勿忘草(わすれなぐさ)」にちなみ、
勿忘草の押し花パーツを取り寄せました。
・・・が、想像していた以上にとっても小さい!
急遽別の押し花も用意し、初めてのラミネーターも
導入して押し花しおりに挑戦。
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ラミネート加工をした後は、熱いまますぐに重しを
乗せて時間を置きます。
冷ましたら4cm幅に切り、四隅は角丸パンチで丸みを
帯びさせ、一穴パンチであけた上部に水色のサテン
リボンを結んで完成です。
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まあまあうまくいったかなとの感触です。
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機械で行うような完璧な製本とはとても言えないと思いますが、もしこのような手作業の本作りでよろしければ、
いつでもご依頼をお待ちいたしております。製作の数量にも特に制限はございません。ぜひお気軽にご相談ください。


製本作業は、大なり小なり「ここでこれをしでかしたら命取り!」といった事柄がいつも以上にそこかしこに散りばめられて
おり、気が抜けません。常に多大な緊張感と集中力をお供に取り組むので、自分にびしっと喝が入りました。わるくない
感覚です。
そして、一連の工程を通じて改めて思ったのが、確認作業の重要さです。
普段の仕事も、もちろん自分一人の目だけが頼りなので執拗に確認はしますが、今回は少々程度が違いました。
異様なほど気をつけていたつもりでも、完成後にこんなことも・・・



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26ページの次が29ページに・・・
狐につままれた気分です。
工程ごとにあんなに確認したはずなのに。
切なきボツ作品となりました。
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すかさず頭に浮かんだのは、泡坂妻夫氏の傑作小説「亜愛一郎」シリーズの一編です。
とある編集社で「三易の発祥」との題名の本を出版するべく編集者たちが動いていたのですが、いざ印刷の段に進むまで
原稿の記載が「三助の発情」となっていることに誰一人として気づかないというエピソード。
昔初めて読んだ時には大笑いしたものですが、思い込みや先入観がいかにおそろしいか、今は我が目を疑えと自分自身に
戒めたくもなります。
どんなに確認しても、しすぎということはありません。これは今後も仕事において肝に銘じます。

友禅和紙の絵柄について。
お任せでしたので、基調となる色は青にしようとの点は真っ先に決めました。題名の「勿忘草」の花で浮かぶのは、やはり
青色の印象が強いと思ったからです。
本当は、ずばり勿忘草柄があればいいなと考え、仕入れ先のお店に連絡して各友禅和紙メーカーに確認をしていただきました。
残念ながら、そのような絵柄は存在しないと分かり、それなら本物の勿忘草の押し花を用いてしおりを作ってみようとの発想に
切り替えました。
結局、厳選した5つの絵柄を実際に取り寄せて、更に迷った挙句カバーの友禅和紙を決定しました。
歌集は、月ごとに「門松」「海」「花」「菊」など様々なお題によって構成されているので、できるだけ題目にある要素が
含まれる絵柄がよいと考えました。そして、記憶の波にそういった思い出がいつまでも忘れられることなく漂うイメージに
思え、タイトルとも合致すると感じ、決め手としました。


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ちなみに、この花は勿忘草のように見えなくも
ないかも知れないなんて思ったり思わなかったり。
(しつこい)
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なお、おしくも落選したほかの4種のみなさんには、クリップボード・ノートカバー・ぽち袋・単語帳となってもらい、
歌集30冊としおりと共に、ささやかな贈り物として送り出したのでした。


6-7月の空模様や夕景など。用事で外に出る度にちょこちょこと撮りためました。

若冲カレンダー、8月は「隠元豆・玉蜀黍図」。
「いんげんまめ・とうもろこしず」。
読み方が少々難しい。
2枚セットになっているうちの右幅、「隠元豆」の方と
いうことのようです。
7月までの鮮やかな色彩から一転、水墨の表現。
心地よい静けさを感じる空間に佇む横向きカエルの
愛らしいこと。
そっとお邪魔したくなる世界観です。

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伊藤若冲/隠元豆・玉蜀黍図(右幅)
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