■満願 /米澤穂信著
「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」
の六篇からなる、珠玉の短編集。
* * *
はじめての作家さんでしたが、過去読んできたあらゆる
短編集の中にあっても、得られた満足感は相当なものでした。
とても濃密です。
特に強い印象を残したのが「万灯」。
手練れの中年商社マンが、天然ガス資源を得る交渉のために
バングラデシュへ。しかし、現地のマタボール(村長のような
立場の人物)の一人である教養の高い男性から、開発に対し
全面的な拒絶を受ける。そこに初対面となる競合企業の社員も
現れ、事態は深刻化を極めてゆく。
家族も友人も持たず、故郷日本を出て時に危険と隣り合わせの
諸外国を飛び回り続け、仕事だけが矜持でありすがりつく全て
である孤独な男の、恐ろしい決断への自然な流れと実行力に
驚き、おののき、そして果てには哀れみすら誘うような余韻が
ひたすらに心を漂う見事な一篇でした。
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