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10月15日(土)


罪の声 /塩田武士著


■罪の声 /塩田武士著

「グリコ・森永事件」1984-1985年 未解決事件
関西で起きた食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件。
誘拐、放火、殺人未遂(毒物混入)などを含む。

* * *

「三億円事件」をはじめ、未解決の重大事件は小説に
限らず映画やドラマなど創作物のモデルになることが
ままあると思います。「罪の声」は、「グリコ・森永事件」
を下敷きに展開される作品です。
各名称こそ変えてありますが、事件の細部に至るまでの
全ての内容は、ほぼ史実と同様に作られているようです。
とても詳細です。新聞記者が特集記事のため昔の事件を
追う形でもあるので、終始上質なノンフィクション小説を
読んでいる感覚でした。
初めての著者の経歴が気になり少し調べると、新聞社に
勤めた経験がおありとのことで、非常に納得しました。


以下、若干ネタバレのようなものを含む文章です。


当時、自分は10歳頃でした。連日テレビや新聞で報道されていたのを覚えています。
犯人が警察やマスコミに対し送り付けた数々の挑発の文言はひらがなだけの独特なもので、強く印象に残っています。
容疑者の一人として公開された「キツネ目の男」の似顔絵は、数ある指名手配犯の顏の中でも突出して多くの人々の
目に焼ついているのではないでしょうか。
自宅から誘拐された江崎グリコの社長が、自力で監禁場所から逃げ出し無事保護された一報には、子供ながらに
不思議な感触を得たことをはっきり思い出せます。

幾度も警察が犯人と接触する機会を作る執念を見せながら逮捕に至らなかった未解決事件なだけに、色々な憶測も
飛び、犯人グループの目的や思惑についても諸説語られています。その少し前にオランダで起きた、ビールで名高い
「ハイネケン」の会長が誘拐された一件を参考にしたとも推測されていますが、単純な営利目的の誘拐や脅迫かと
思いきや、実際には身代金の受け取りは一度もなされませんでした。尻尾をつかませる材料は豊富のようでいて、
ついには犯人は不明のまま、結局なんだったのか分からずじまい。だからこそ歳月の流れにのまれないで人の興味を
引き続ける事件なのでしょう。

犯行指示には、テープに録音した「子供の声」が使われることがありました。題名が指し示すのは、その声のことです。
よもや犯罪とは知らず、大人に言われるままにしゃべり、それが昭和犯罪史に残る未解決事件で使用された。自分が
加担していた過去。偶然発見した古いカセットテープから数十年前の朧げな出来事がよみがえってゆきます。

声を吹き込んだ子は数人おり、その内の姉弟だった姉の非業な運命、一人残された弟が生きた壮絶な半生の告白には、
胸を押しつぶされます。
犯行グループの派手な立ち回りが目立つ中、片隅で確実に子供を巻き込んだ卑劣な犯罪であることを、決して忘れては
いけない。その子供たちが辿ったかも知れない人生が、露になる物語です。






若冲カレンダー、10月は「鷲図」。


恰好よすぎる。一言に尽きる。
鳥の王者の貫禄。静の中に確かな力強さの描写。



猛禽類では、札幌在住には時折鳶を激写できたの
ですが、鷲にはまだ一度も出会ったことがなく、
ぜひ写真を撮ってみたいところです。

伊藤若冲 鷲図
鷲図/伊藤若冲



 



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