■テスカトリポカ
/佐藤究著
今年の2月に図書館に予約を入れ、11月に順番が回ってきました。
はじめて読む作家さんです。ハードカバー500ページ強。
第134回山本周五郎賞、第165回直木賞受賞作とのこと。
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日々凄惨な抗争が繰り広げられる、メキシコ麻薬カルテルの世界を
牛耳るカサソラ兄弟。ある時敵対する組織に襲撃され、三男にあたる
バルミロを除き一家全滅する。単身インドネシアに逃れたバルミロは
復讐を誓い、資金調達のため動く中で一人の日本人臓器ブローカーに
出会い、その男が元心臓血管外科医であることを知る。やがて二人は
川崎を本拠地とし、不法な心臓移植ビジネスに手を染めてゆく。
簡潔すぎるあらすじです。重要な人物はほかにも大勢登場します。
特に、日本人の父とメキシコ人の母を持つ長身怪力の少年コシモは、
バルミロの運命をも左右するキーパーソンとなります。
バルミロは、古代メキシコ文明の一つ「アステカ文明」を盲信する
祖母に育てられ、自身もその影響を強く受けた思考と行動を備えて
います。アステカ文明には神々に生贄(生きた人間)の心臓を捧げる
儀式があり、闇の心臓移植にある種の意味をもたらします。
テスカトリポカはアステカの神のひとり。恐怖、暴力、悪夢で構築
されたバルミロの人生は、常にこの恐るべき神と共に存在したと言える
でしょう。終始興味を引かれ続け、これだから読書はやめられないと
いった感想を持つに至った物語でした。
個人的には映画を観るのもとても好きなのですが、映像からでは得ら
れない文章の威力というものを改めて独特に感じたりもしました。
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